トマトジュースと吸血鬼

健康対策にいつも野菜ジュースを飲んでいるのだが、カゴメから大量にトマトジュースが送られてきたので、ひたすらトマトジュースを飲んでいる。

そんなわけで、吸血鬼のモデル、串刺し公ヴラドのお話。

15世紀のルーマニアはワラキア、トランシルヴァニア、モルドヴァに分かれていました。ワラキアの領主がドラキュラのモデルになった串刺し公ヴラド・ツエペシュです。彼の所業はすさまじく、その残忍な殺戮ぶりは近隣諸国を震え上がらせました。
　
　オーストリア･ハンガリー帝国に属していたワラキアは、しばしばオスマン・トルコの侵略をうけていました。ヴラドは捕虜にしたトルコ兵を串刺しや磔刑にし、街道や城の周囲に並べて、越境したトルコ軍を威嚇していたのです。その無残さと腐臭に、トルコ軍はしばしばおそれおののき、退却したといいます。

　ヴラドは自分を裏切る領民にもきびしかったそうです。トルコに味方した一村を軍で取り囲み、火をつけ焼き払ったりしました。逃げ出してくる住民はその場で殺し、捕虜にしたものは売国奴の見せしめとして尻から太い木の杭を突き刺し、さらし者にしました。また大きな鉄釜に水を入れ、手足を縛った罪人を投げ込み、首だけを釜の木蓋に開けた穴からだし、火を炊いて釜茹でにし、死に至る苦悶を十分に楽しんだそうな。ひえー。

　あるとき、ヴラドは自分を裏切った貴族を城に呼び出し、そしらぬ顔で晩餐に招待した。豪華な料理に満足した貴族に向かって、ヴラドは微笑みながら言った。「今夜の肉は特別うまかったろう？」。貴族はとてもおいしかったと答えた。ヴラドは「そうだろうな、貴様の愛児の肉だからな」と平然と言い放ち、「裏切りの報いだ」と鋭いナイフで隣席の貴族の喉をかき切ったという。ハンニバルだね。

　しかし、この残忍なヴラドにも、直接吸血鬼と結びつく伝承はありません。ヴラドを吸血鬼に仕立てたのは、後世の「ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーの創作からです。むしろ土地柄から吸血鬼の民間伝承が多かったのです。当時のルーマニアは、吸血鬼の跳梁した僻地でした。その吸血鬼伝説というのはこんな感じ。

　ワラキアの首府トゥルゴヴィシュテ郊外ポエナリの村で、15世紀半ばのことである。当時ハンガリー帝国の軍隊が、ワラキアをトルコの侵略から保護するために駐在していた。
　ある日のこと、兵士の一人が顔なじみになった村はずれの農家によばれ、夕食をともにした。すると、そこに見知らぬ一人の男が入ってきて、家族と一緒に食卓に座った。主人も沈黙したまま家族も震えている。兵士はみんながそのわりには、男を無視しているので不思議に思った。無言のまま食事は終わり、兵士は宿舎に引き揚げた。
　翌日、主人が死んだという知らせが届いた。兵士は早速農家に弔問に行き、その原因を訊いた。それは昨夜の男に血を吸い取られたためだとわかった。あの男は半年前に死んで埋葬された父親だった。冥土から息子を迎えに来たと言うのだ。
　兵士はすぐ連隊にこの事件を報告した。それは歩兵連隊長カプレラス伯爵の耳に入った。伯爵は軍医を派遣して事情を調べさせた。そして事実かどうか、父親の墓を発掘した。確かに父親が埋葬されていたが、腐敗どころか昨日死んだごとく生々しく、皮膚を傷つけると鮮血があふれた。伯爵はそれを聞くと、この父親は吸血鬼に間違いないと断定した。
　調べてみると死んだ父親は、半年のうちに3回も家族の夕食の席に現れた。一は妻の首から血を吸い、2回目は娘の血、3回目の昨晩は息子の血を吸ったのだった。そして3人ともその場に昏倒し死んだという。一家は吸血鬼とは思わず、亡き父親の幽霊の祟りだと考えていた。
　伯爵は軍医に命じて、その父親の首を切断させた。あふれる血潮は生きている人と変わらなかった。その遺体は焼却処分にし、遺灰は川に流した。その後は吸血鬼騒ぎは起こらなかったという。

しっかし、日本の民話って、幽霊や鬼は出てくるけど、吸血系の怪物とかがいないのはなぜでしょうね？日本ではあまり血が恐怖を連想させるものじゃなかったのかしらね？血を吸われて死ぬよりも、呪われて死ぬ話の方が圧倒的におおいよねー。非直接的なものに恐怖感を覚える文化だねー。